ロングインタビュー1 "サニーデイ・サービス2010 前編"





平日夜の下北沢、南口すぐの居酒屋の奥座敷
曽我部恵一、田中 貴、丸山晴茂、3人が当たり前のような顔をして並んでいる。
時の流れも何事も、なかったような顔をして笑っている。

サニーデイ・サービス、2年前の再結成ライヴに続いて、この4月には10年ぶりとなる新録アルバムを発表するという。
にくいことに、デビューアルバム『若者たち』が世に出た日からきっかり15年後の同日に、『本日は晴天なり』は発売になるみたいだ。

いったい、何が起こって、こういうことになっているのだろう?

ありえなかったはずの2010年のサニーデイ・サービス・インタビュー、まず前編の1回目は、過去と現在を行ったり来たりするの巻!






 再結成のいきさつは、ホントにゆるい話。
 その頃になるともう解散した理由も憶えてなくて(笑)。
 ただ、一度ツアーをやってみると完璧に思い出した。
 「あ〜、こんな感じで解散したなぁ〜」って。







——よろしくお願いします。
曽我部「よろしくお願いします!」
田中「よろしくお願いします」
丸山「よろしくお願いします」
——それにしても、この3人を前にインタビューするっていうのは、ものすごくフシギな状況のような気がするんだけど(笑)。そもそも、こうして3人で取材受けることってあったの?
田中「再結成してからは初だよね。取材とか受けてないから」
——まあ、今回はサニーデイ・サービスとして10年ぶりに作品を出すんだから、3人と話がしたいと思って。まずは、どっからいこうか……2008年8月、ライジングサン(ロックフェス)で再結成した時のいきさつから教えてください。
曽我部「あれは…………その前にちょろちょろ会うようにはなってたんだよ。それで『なんかやる?』みたいなことは冗談交じりに話したりしてて、その流れで。だから意を決して『再結成しましょう!』みたいなことはなかった」
——あ、ドキドキしながら電話したりとかはなかったんだ?
曽我部「そういう感じじゃなくて。まあ、ライジングサンからの要請もあったんだよ。『ライジングサンも10周年だし、サニーデイで出ませんか?』って。そういうのもあったから『じゃあ、なんかやる?』って」
田中「俺もその2年くらい前から、普通にローズ(レコード=曽我部の事務所)に楽器を借りに行ったり、遊びに行くようになってて。そのタイミングで、『こういう話があるけど、どう?』くらいの感じで話した憶えがあるなぁ」
曽我部「俺もその頃になると、なんで解散したのかとか、なんでやってないのかとか、意識の中になくてさ(笑)。『やる?って言われてるし、やる?』みたいな、もうホントにゆるい話なんだよ」
——確かに……今日来る前に当時のこと思い出してたんだけど、なんで解散したのかとか、もうほとんど憶えてないんだよね(笑)。
曽我部「でもそれはツアーやってみて完璧に思い出したけどね! 『あ〜、こんな感じで解散したなぁ〜』って(笑)」
田中「……俺もリハとかやってて、『すごいあったァァァ〜!! 』って思い出した(笑)」
曽我部「超リアルに思い出すよ! あぁ、こんなのが面倒くさくて、ああなって解散したんだな……って。そういうのは一回ツアーやると鮮明に思い出す」
——そんなもんなんだ(笑)。会ってないとイヤなこと忘れちゃうけど、いざ一緒になると——。
曽我部「うん、最初は昔やってた部活をやるくらいの気持ちで考えてたけど、そうじゃなかったね。でも昔とは心持ちはちょっと違うよ。昔はサニーデイしかなかったから、逃げ場がなかった。でも今はソカバン(曽我部恵一BAND)もあるしソロもあるし、ライヴをやるってことも自分の生活の一部でしかないからさ。“ここでできる一番いい表現をすればいいだけ”っていう心のゆとりがすごくあるんだよね」






 自分の音楽人生の中で、サニーデイの楽曲をもう一度
 プレゼンテーションすることには意義があると思ったし
 最初の段階では、そこが立脚点だった。







——ちなみに、その“完璧に思い出したイヤな感じ”ってどんなことだったの?
曽我部「なんか……演奏がうまくいかないとか、そういうことだよ。まあ、うまくいかないことなんて他のバンドでもあるけど、『あ、サニーデイはこのパターンか』って感じで(笑)」
田中「……ライヴで、リハと本番の間に『大丈夫かな? 本番ちゃんとやれっかな??』って。その会場は初めてのはずなのに、もう通り過ぎた10年間とか全然なかったぐらいの感じで……」
——晴茂くんは、どうだったの?
丸山「いや、俺はわりと何も考えてないから。昔とあんま変わってないっすね(笑)」
——えー、では話を戻すと、曽我部くんと田中くんが会うようになって、またサニーデイをやろうかって話になった時、晴茂くんは——。
丸山「俺は何も知らなかった。だってそれ以前なんて——」
曽我部「めったに会わなかったよね」
——あ、解散して最初の5〜6年は3人ともあまり会ってなかったんだ?
田中「ほぼ、そうですね」
曽我部「ただ、田中は音楽業界にいたから、イベントとかで顔を合わしたりすることはあったけど」
丸山「俺は完全に音楽と離れてたから。ドラムも全然やってなかったし」
——そんな状態なのに、いざ再結成となるとできちゃうものなの?
丸山「いや、なんとかなってるとは言えないですけど、まあ、とりあえず…………(苦笑)」
——もう1回サニーデイやるって電話が来た時は、どんな気持ちだった?
丸山「んー…………その時は田中から突然電話がかかってきたんだけど、再結成っていうより、『ライジング10周年だから、とりあえず出てみない?』くらいの感じで。その時は……なんかどこかに引っかかってるものがあったんで、ちょっと嬉しかったです。まだちょっとやれるんだ、って。引っかかってたっていうのは……やっぱ、やりたい部分があったんでしょう。他のバンドではなく、サニーデイはおもしろかったから、やりたいって気持ちは残ってたんです」
——田中くんは、曽我部くんから「やる?」って言われた時、どうだったの?
田中「……………………どうすかね? 俺は、サニーデイってものは、もうやんないと思ってたから。それまでもソロのライヴを手伝ったり、曽我部と一緒に演奏することはあったけど、3人でやることはないのかなって思ってて。だからそういう話が出て、意外といえば意外だった」
——やんないとは思ってたけど、やってみたいとは思ってた?
田中「…………あんまりそういうことを考えたことはなかったな…………」
——曽我部くんの中では、それ以前にサニーデイ再結成を考えたことはなかった?
曽我部「俺もそれまでまったく考えてなかったから、話を振られて『あー、そういうこともあるのか』と思って。言われて初めて可能性に気付いたというか」
——で、言われて考えたらアリだった?
曽我部「アリもナシもあんまなくて、『じゃ、やる?』ぐらいの感じですよ。『よしっ、やってみよう!』って感じでもないし」
——でも、リスナー側としては「ついにサニーデイ・サービス再結成!!!!」みたいなテンションもあったでしょう。
曽我部「そう?」
——だって実際ステージに立ってみたら熱狂的なリアクションとか、なかった?
曽我部「昔のファンの人が喜んでくれたっていうのは、まあ、あったよね。あと、自分のキャリアとして、サニーデイの楽曲を過去のものにして披露しないのはもったいないと思ってたんだよ。ソロの時だってやったりするし。それをもう一度ちゃんとプレゼンテーションしたい気持ちは、自分の仕事の意義としてあった。なんか同じバンドが昔の名作をもう1回リメイクするような、仕事としてのトライアルっていうか。再結成とかサニーデイに対する想いは置いといて、自分のずっと続いていく音楽人生の中で、それはやらなければいけなかったと思うし」
——それは絶対出てくることだと思う。
曽我部「僕がやる意味は、それだね。そこに立脚点を置けばできるかな、って感じは最初に思ってた」











 でも実際やってみると、イメージとは全然違ってた。
 単にもう1回音楽を演奏するだけじゃなくて、
 もう1回青春をやんなきゃいけない——
 サニーデイはそういうバンドだったんだ。







——で、実際やってみて——。
曽我部「やってみるとゼンッゼン違う! 実際やってみるとそうはいかないというか、そういうことじゃなかったなというか——再結成って単にもう1回曲を録り直すことじゃなくて、バンドって人間関係だから、人間関係をもう1回蘇生させることになるんだよ。ただ、音楽をもう1回演奏するっていうのとは違うんだよ」
——たとえばソロの人が10年前の曲を再演するのとは違う?
曽我部「んー……“もう1回青春をやんなきゃいけない”っていうか。あの当時の想いでやんなきゃいけない感じがして。テクニカルな部分とかスキルでやり直すってことではまったくなかったし、やってみると惨澹たる出来で……」
——ただ、やればいいってわけじゃない?
曽我部「だから、ユニコーンみたいにはならないわけよ。俺たちはもう1回ダメな感じというか、自分がスキルを持ってなかった頃に戻らなければいけないというか。それがやってみて判明したんだよね」
——やってみて分かった?
曽我部「全員がこの10年間、いろんなところで修行して、音楽的な引き出しも増えて——って状態でやるんだったらスーパーバンドみたいになるかもしれないけど、俺らは違うんだよ。もう1回10年前や15年前に戻らなければいけない。自分が何の知識もなくて、ギターもあまり弾けなくて、ライヴもあまり経験してない——そういう自分まで戻らないとできないんだってことに気付いて。だから今、結構苦しいっすね。苦しいし、『あ、これがもう1回やるってことか』っていうのは分かった」
——たとえば『若者たち2010』みたいなものを作ってもいいわけじゃない。今の視点からの再解釈。でもそうはならなかった?
曽我部「そうは問屋が卸さなかった(笑)」
——そこはサニーデイ・サービスというバンドならでは——なのかな?
曽我部「うーん……ここまで味が強いバンドというか、特性が強いバンドとは思わなかったね。“ここに来たら、これしかできない”って。それは大変っすよ。いままで10年、ソロとかで一生懸命やってきたものがまったく通用しないんだから。まあ、だからこそ自分にとって意味のあることだと思うけど」
——スキルレスな状態に戻ることに意味がある?
曽我部「ただ、それがどこに向かうのかは分からない。わざわざ自分でスキルを失くさなきゃいけない場所に行って、努力して、何があるんだろう……って、イマイチ分からない(笑)」






 バンドって、青春の、期間が限定された幻のような瞬間。
 楽しいし、お金もほしいし、有名にもなりたいし……
 最初のつながりがあやふやだったぶん、
 みんななるべくして離れていくんだと思うよ。







——田中くんは実際演奏してみてどう思ったの?
田中「ホント変わってなかったですね……」
曽我部「というか、ヘタになってた(笑)。だってさ、当時はずっとやってるから4枚目(『Sunny Day Service』)の頃とか、もうちょっと演奏できたんだよ。でも今回は『東京』の頃の演奏体力に落ち込んでた(笑)。それって逆に言うと、一番最初の、一番ナマな状態なサニーデイ・サービスで。それがはたしてお客さんにどう映るのか、俺は心配だけどね(笑)」
——“つたない若者”は微笑ましいけど、“つたない中年”って……。
曽我部「ホント当時と何も変わってないよ。でも……俺にとっては『その何も変わってないところを見せることが、お客さんにとってエンターテイメントになりうるのかな?』って想いもあって。もちろん、単に『ヘタだな〜〜〜』って思われてる可能性もあるし、『あ、これが聴いてきたサニーデイだ』って思われてるかもしれないし、それは分からないけど」
田中「やっぱり変わらないところは、変わらないからね」
曽我部「うん、音が変わらないっていうのは逆にスゴイ。良くなったり悪くなったりするもんだと思ってたからさ。独特だよね……独特。田中みたいなベース弾く人いないと思うし、晴茂くんのドラムもそうだし」
——いざ、やりはじめたら、具体的な感触が蘇ってきたわけだ。
曽我部「まず演奏に関しては、俺は迫力がほしかったわけ。でも、迫力ないのよ(苦笑)。まあ、音楽において迫力がないことが悪いことでは全然ないんだけど、俺はロックバンドにはドーン!とした音圧がほしくて。でもサニーデイは音圧がないから、迫力が生まれないの。ソカバン(=曽我部恵一バンド)とは資質が全然違うんだよね。逆にソカバンにはこういう演奏はできないし」
——晴茂くんはスティックだって、ひさびさに持ったわけじゃない。演奏前はどんな気持ちだったの?
丸山「え、最初は心配でしたよ。できんのかな、って」
——でもやってみたら身体が動いた、と。
丸山「んー、できたとはいえないですけど、アレンジはかろうじて憶えてた(苦笑)。解散する直前の頃とは違う感じ——純粋に楽しい気持ちでバンドに臨めたのは良かったと思います」
曽我部「まあ、解散っていうのは、離れただけの話だからね。それぞれ各自は楽しんでたんだけど、3人で一緒にいる理由は何ひとつない状態になってた。バンドとして3人の名前がくっついていたから3人でいただけで——ほら、小学校で野球部に入ってた人がいて、たまに趣味で集まってたとしても高校進学したり就職していくうちに、そこにいる意味がだんだんなくなってくるじゃない? それは何事もそうだし、そういうのがいいな、と思って」
——それを淋しいと捉える人もいると思うけど。
曽我部「だから魅力があるんじゃない? だってさ、若い女の子とかバンド好きじゃん。あれはすぐ終わるのが分かってるからであって、ジジイになるまでやってくれなんて誰も思ってないんだよ。青春の、期間が限定された幻のような瞬間だって分かってるから、みんな好きなんだよね。若者が何年も一緒にいると、なるべくしてそうなるわけよ。別に宗教とか政治思想の下に集まってるわけではないし、時が経てばそれぞれになっていくし、独立していく。俺らだって、そのパターンのひとつだったし」
——元々楽しいってだけで始めたわけだし。
曽我部「楽しいし、お金もほしいし、有名にもなりたいし、何か日常ではない面白さを求めてるし……元々ゆる〜く集まってきただけだからさ。それが音を出してみたらちょっと当たっちゃって続いていったけど、そのうちそれぞれの考え方が生まれてきて、友達とか家族とか周りの環境が固められていって……最初のつながりがあやふやだったぶん、そこでみんな離れていくんだと思うな」
——よっぽどビジネスとして割り切らないかぎり、続かないとは思う。
曽我部「俺らもビジネスにはなったんだよ。でも、それでやるのがイヤだったわけで。だから今は、もう1回振り出しに戻った感じの方が強いけどね」








居酒屋だけど、曽我部くんも晴茂くんもお酒は呑んでいない。
ノンアルコールで真面目に、穏やかに“青春”を語るアラフォー男子たち。
前フリなしで、いきなりストーンと入っていけちゃうところがフシギだ。

さて、さらにさらに会話が進む次回は、
「レコーディングまでのいきさつ」
劇画・オバQ
「なんだったんだ、サニーデイらしさ」
など、さらにさらにな内容を交えながらお送りしていきます!



photo by masafumi sakamoto



ロングインタビュー1 "サニーデイ・サービス2010 後編"へはこちら








トップへ戻る